不動産について特定財産承継遺言がなされた場合、
遺言執行者は、受益相続人のために相続登己を単独で申請することが可能か


特定財産承継遺言がなされた場合には、遺言執行者に、対抗要件の具備に必要な行為をする権限が付与されました。ただし、事前に受益相続人の了解を得た上で行われるべきであると考えられます。

1.特定財産承継遺言がなされた場合の遺言執行者の権限
従前の判例が承認してきたいわゆる「相続させる」旨の遺言については、新法において、これを「特定財産承継遺言」として定義付けられました。
その上で、特定財産承継遺言がなされた場合には、遺言執行者は、対抗要件の具備に必要な行為をする権限を有するものとして明記されました(民1014A)。
これは、今般の改正により、遺産分割方法の指定による権利変動についても、受益相続人の法定相続分を超える部分については対抗問題として処理するものとされたこと(民899の2@)、近時、相続時に相続財産に属する不動産について登記がされないために、その所有者が不明確になっている不動産が多数存在することが社会問題となっていること等に鑑みて、遺言執行者において速やかに対抗要件の具備をさせる必要性が高まったためであると説明されています(中間試案補足説明50頁・51頁)。

2.不動産を目的とする特定財産承継遺言がなされた場合
不動産を目的とする特定財産承継遺言がなされた場合には、遺言執行者は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときを除き、単独で、相続による権利の移転の登記の申請をすることができます(民1014A)。これは先に述べたとおり、遺言執行者において、速やかに対抗要件を実現させる必要性が高まったことから、遺言執行者の権限として明確化されたものです。
遺言執行者は、受益相続人の法定代理人として登記の申請をすることになるため(令元・6・27民二68)、相続登記が完了した際には、遺言執行者に対して、登記識別情報が通知されることになります(不登規62@)。
なお、受益相続人が対抗要件を備えることは、遺言の執行の妨害行為(民1013@)には該当しないものとされており、受益相続人が自ら単独で相続による権利の移転の登記を申請することができることに変わりはありません(一問一答117頁)。