相続による権利の承継に関して、遺言執行者はどのような点に注意すべきか


改正により、法定相続分を超える部分については、「登記、登録、その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない」とされたこと、特定財産承継遺言については遺言執行者に対抗要件を備えるために必要な行為をする権限が付与されたことから、速やかに登記申請その他の対抗要件を具備するための行為をする必要があります。

1.遺言執行者の権限の改正

(1)登記申請権限
相続法の改正により、特定財産承継遺言により選任された遺言執行者は、「対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる」と定められました(民1014A)改正前においても、遺贈については遺言執行者が登記義務者として所有権移転登記の申請を行ってきましたが、いわゆる相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)については、受益相続人による単独申請が可能であり、遺言執行者は遺言の執行として登記手続をする義務を負うものではないとされていました(最判平7・1・24判時1523・81)。
しかし、今般の改正により、特定財産承継遺言がなされた場合に対抗要件を具備する行為についても、遺言執行者の職務権限であるとされました。また、遺贈についても、遺言執行者が選任されている場合は、遺言執行者のみが遺贈の履行をすることができることも明記されました(民1012A)。以上の改正により、遺言に基づく登記申請における遺言執行者の役割は、従来以上にその重要性を増しているといえるでしょう。

(2)通知義務
遺言執行者の権限に関するもう一つの重要な改正は、遺言内容の通知義務が課されたことです(民1007A)。遺言執行者は、「その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない」とされ、遺言執行者が遺言内容の通知を怠れば、善管注意義務違反を問われるおそれがあります。

遺言の内容については、従来も、実務上は財産目録の交付と同時に遺言書の写しを送付するなどして通知することが一般的でしたが、遺留分のない相続人に対しては紛争防止の観点から具体的な内容までは開示しない場合もあったのではないかと思われます。しかし、今後は、推定相続人の遺留分の有無を問わず、確実に通知義務を果たす必要があります。

(3)通知のタイミング
(2)の通知義務との関係で問題になるのが、(1)の遺言執行者による登記申請と(2)の通知義務の履行のタイミングの問題です。(2)の通知義務は、任務の開始後、遅滞なく履行する必要がありますが、特定財産承継遺言の遺言執行者が、もし通知義務を先に履行し、登記申請手続を留保している間に、受益相続人以外の相続人が法定相続分で登記を入れ、持分を第三者に譲渡して第三者が登記を備えてしまうと、遺言の内容を実現できなくなります。このような場合には、遺言執行者の任務懈怠として捉えられかねません。
よって、遺言執行者としては、このような事態が生じないように細心の注意を払う必要があります。具体的には、相続が発生したら直ちに登記申請ができるように、事前の準備を十分にしておき、登記を申請するのと同時に、あるいは登記を先に申請してから受益相続人以外の相続人に遺言の内容を遅滞なく通知するなどの工夫も必要になるでしょう。
なお、預貯金債権については、金融機関に遺言執行者の就任通知と合わせて債権の承継通知を送付することにより対抗要件を具備することになります。